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ウガンダ・パドラにおける「災因論」の民族誌

様々な事象を、あえて土着の論理やウィッチ(妖術師)の言説に寄り添って記述。アフリカに見る「魔術的リアリズム」の世界。

著者 梅屋 潔
ジャンル 人類学
シリーズ 人類学専刊
出版年月日 2018/02/20
ISBN 9784894892446
判型・ページ数 A5・760ページ
定価 本体6,000円+税
在庫 在庫あり
 

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はじめに
序章
●第1部
 第1章 トウォ──病いのカテゴリー
 第2章 「災因論」
 第3章 ジャジュウォキの観念
 第4章 ジャミギンバの観念
 第5章 ティポの観念
 第6章 「呪詛」、ラムの観念
 第7章 ルスワ
 第8章 12の事例の検討と分析
 第9章 聖霊派教会の指導者たちとの対話
●第2部
 第10章 葬儀の語られ方
 第11章 あるポストコロニアル・エリートの死
 第12章 葬儀の実際
●第3部
 第13章 ある遺品整理の顛末
 第14章 福音を説くウィッチ
 総括
 あとがき
●付録/参照文献/索引

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災いの原因をどう語るのか
政治家やキリスト教者もが呪術・妖術・呪詛を語る世界。近代というベールの破れ目からのぞく様々な事象とその説明を、あえて土着の論理やウィッチ(妖術師)の言説に寄り添って記述。アフリカに見る「魔術的リアリズム」の世界。

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はじめに



同じ事実/異なる解釈の「災因論」

 同じ事実に立場によって異なる解釈が加えられることはよくある。しかし、多くの場合、異なる解釈を許す状況は限定的である。おそらくは同じ現象に直面していながら、その肝心の「事実」がわかりにくい場合、あるいは事実に対する距離感が異なる場合などが想定されよう。ことに、人間の死、という現象に対する解釈には、そういった「立場の違い」が入り込みやすい。誰もがその現象に立ち会っていながら、1人称として未経験であることはもちろん、2人称、3人称としてもユニークだ。死者に近しい人物と、面識もない人物が同じ距離感を持ってある故人の死について語ることはありえない。それぞれの立場から、死という社会的に重要な、1度きりの、その不可逆的現象を経験し、解釈するのである。

 逆に、であればこそ、たいていの葬儀の会場では、バイオグラフィが読まれて故人の事績を讃えるとともに、その死亡までの経緯についても公式的に発表され、その双方を追認する機会が組み込まれているのかもしれない。その意味では、特定の人間の死という現象に対しては、どの社会でも慎重に合意が求められるような因果関係であるようにも思える。

 死んだ人が生前社会的に重要な地位についていた場合には、その死の公共性ゆえに関心も高まる。そのような人物の死は、社会集団にとって深刻な欠損である。一方、その人物に属していた権力や財産、あるいは名声のようなもの―有形無形のもの――がその所属先を変更する、場合によっては再配分される契機でもある。その意味では社会の再編成の大きな機会であると言ってもいい。重要人物の死の経緯、死の原因について、想像力も含めてさまざまな風説が飛び交うのも当然であろう。過去の歴史的な人物の死ということになると、長い間に渡って、あるいはいつまでたっても、もはや時を経てしまって得られなくなった傍証をもとめて探索がなされ、歴史家も交えてその事実を固定しようとする。そのなかで、飛び交った風説のうちのあるものは淘汰され、あるものは固定して定説となる。

 しかし、ほとんどの人々を満足させる定説がすでにあるのにもかかわらず、特定の一地域でのみ通じる、あからさまに異なる解釈が唱えられるのはいったいどういうことなのか。しかも異を唱えているのは、そろって「個人の立場」ではあるが、その実「民族」と言ってよいほどの人間のまとまりである。その解釈には、われわれの言葉で近似的なものを探すとすれば、「祟り」「呪詛」あるいは「死霊」とでも呼びうるようなエージェントがその死を引きおこした犯人に仕立て上げられ、英雄視さえされたりする。そこでは、世間を納得させたはずの定説もまったく力をもたない。

 本書でとりあげるのは、抽象的に言えば、この問題についての民族誌的探求である。

     (中略)


複数のサイドストーリー

 さて、話をもどそう。

 ウガンダの通常の解釈=「災因」が、ACKの宗教や出自(出身民族)あるいは「知りすぎた男」という定説に収斂していくものであるとするならば、パドラの人々が導き出したACKの死因=「災因」は1940年代に起こった殺人事件や、ACKの60年代から70年代の事績だった。それぞれ、裏付けをとらなければならない。どの程度本当のことなのか、あるいはちっぽけな類似の事実に想像力で肉付けした「話を盛った」「つくり話」に近いものなのか。

 結論を先取りして言えば、この間の調査の結果得られた「災因」は、この2つの事件にまつわるものだけではなかった。このほかにも多数の「災因」が、それぞれ正当性を主張して百花繚乱となったのである。ときとともに、パドラのローカルな「思い当たる節」が多数報告されるようになってきた。詳細は十分な説明を踏まえないと了解しづらいだろうが、列挙しておこう。
たとえば、ACKの父親が通常あるべき埋葬場所に埋葬されなかったこと、殺人によって発生する敵対関係を無視して婚姻関係を結んだことは、必ずしも共通認識ではないが複数のマイナーな「災因」とされうることがわかってきた。複雑なことに、ACKがアドラとは歴史的に実際的にも呪術的にも敵対するニョレの女性と結婚したことと、その彼女の希望による周辺の土地の買い占めと接収が近隣住民の反感を招き、もともとアドラがニョレに対して持っていた「呪詛」イメージを増幅させたことなども指摘できる。土地問題に焦点を絞れば、いわゆる「モダニティ論」の論者たちが説くように、まさに「モダニティ」(この場合には貨幣による土地の売買)によってオカルト的「災因」が先鋭化したものであるとも言える。キリスト教受容の過程で、「骨齧り」に代表される、パドラにおいて行われるべきであると認識されていた儀礼の執行を回避したことも、ネガティヴな噂を強化したであろう。近隣住民は、彼らが入手できる情報、埋葬場所や目にする巨大な十字架などの建造物、すべてをウィッチ(「妖術師」の訳語をあてることが多い)のしわざと見なすようになったのであろう。

 このようなサイドストーリーが(決して時間的には短期間の間とは言えないが)、次から次へと明らかになってきたのである。

 また、当初から予想したとおり、エリートの誰もがオカルト化するわけではないとの確証も、フィールドから得られるようになってきた。エリートのもつ「力」がオカルト的「力」と親縁性が高く、オカルト化する傾向にあるだけである。ACKと同じような条件を満たしている人物――つまりコロニアル・エリート、あるいはポストコロニアル・エリート――でも、ティポや「呪詛」の噂は一切報告されていない例が複数確認できた。数は少ないが、国際的な舞台や中央政府の表舞台で一時期華々しく活躍しながらもごく普通にリタイアして農民に戻る例もあったのである。だから近代的エリートが即座に、あるいはかならずそのような対象となるわけではない。なりやすいだけだ。その意味では近代化やポストコロニアルな社会変化に対する地域社会には、思いのほか柔軟性があると言える。

 ただ、今はもう錆びて跡形もない、広さ5000エーカーにも及ぶACKの地所を取り囲んでいた「有刺鉄線」を幻視しつつ考えてしまうのは、シンボリックにも現実的にもこの近代の産物がきわめて有効な「境界」として機能したということである。外部の人々は「有刺鉄線の内部」に対する想像力をたくましくし、解釈をエスカレートさせた。「内部」と「外部」との直接の接触経験が少ないところに、補正の機会はない。オカルトの「物語」は、砂埃を巻き上げて走って行く車を眺めながら、作りあげられたイメージを増殖させていくのである。

 本書は、一義的には、そうした、当初不可能とも思えたような多様な要素や原因、複数のサイドストーリーをできるだけ細部も捨てずに描きだそうと試みた「災因論の民族誌」である。もちろん、すべてを描ききれるわけもない。しかし、本書が提出する「蜘蛛の巣」のイメージのように、あらゆる方向に伸びていく可能性のある関連性のあるストーリーをできるだけ断ち切らないようにし、むしろ読者が手近な糸をたぐり寄せて解釈の網の目を望めば広げることができるようこころがけたつもりである。
くどいが、つけ加えよう。そうした個別社会の「災因論」の民族誌としての展開を本書のいわば「蜘蛛の巣」の「縦糸」とするなら、その「縦糸」を支点として「横糸」が螺旋状に張り巡らされていると考えていただいてよい。実際の「蜘蛛の糸」ほどには、幾何学的に美しいかたちで構造化されているとは到底言えないが、ACKの噂にさまざまなサイドストーリーがあるように、本書にもさまざまなサイドストーリーがあるということである。それらの文脈をはじめに提示しておくことは、この決して読みやすくはないだろう著作には、ことによると必要なガイドラインかもしれない。

 まず、「横糸」の1つとして辿ることができるのは、「大主教殺害事件」によるACKの死とは異なるレヴェルで焦点化されうる、アフリカの宗教研究一般という、より広い文脈における「災因論」という概念と、それにかかわる研究の理論的見直しがある。日本語で本書が書かれる以上、日本語で書かれた先行研究を検討する中で、「災因」「物語論」「アブダクション」など類似のテーマを考える際の分析枠組について改めて整理する必要があった。このことは、このテーマでこの地域の民族誌を書く上で回避できない義務のようなものであっただろう。また、資料論として、「テキスト」という語彙で呼ばれる資料についての議論を整理してある立場を提示したという側面もある。これが第2に目につく「横糸」として指摘できるであろう。また、第3に、アドラはもちろんだが、ランギ、アチョリなどの西ナイル系の民族誌を参照することで、しかもジョクjok、あるいはジュオクjuokの観念を扱うという比較民族誌の試みが、またべつの場所に「横糸」として張られている。これは、古典的な民族誌の再評価の側面ももたせうる部分かも知れない。

 そのほかにもキリスト教の土着化、というテーマも重要なものの1つだし、やや控えめながら「事例素」という考え方も比較のための可能性を開くものとして提示している。また、言うまでもないことだが、Commaroff & Commaroff[1993, 2001]やGeschiere[1997]の考え方に対する賞賛と批判も、「災因論」の民族誌とは別なルートで張られた主要な「縦糸」の1つである。

 このように縦横の糸によってなる複雑な網を張った、欲張りなコンテンツを含む本書は、以下の構成をとっている。


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著者紹介
梅屋 潔(うめや きよし)
1969年、静岡市生まれ。
1995年、慶應義塾大学大学院社会学研究科修士課程修了、2002年、一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(社会学)。日本学術振興会特別研究員(平成8年度DC2 1996-1998、平成14年度PD 2002-2005、一橋大学)、JICA国際協力事業団専門家(1999-2000)、ウガンダ・マケレレ大学社会調査研究所研究員(1997-2000)、マケレレ大学社会科学部客員研究員(1999-2000)、東北学院大学教養学部助教授、准教授(2005-2009)、神戸大学大学院国際文化学研究科准教授(2009-2016)を経て、現在、神戸大学大学院国際文化学研究科教授。国際人間科学部教授併任。
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共著書に『憑依と呪いのエスノグラフィー』(中西裕二、浦野茂との共著、岩田書院、2001年10月)、『新版 文化人類学のレッスン―フィールドからの出発』(シンジルトとの共編著、学陽書房、2017年2月)、論文に、「ウガンダ・パドラにおける『災因論』―jwogi、tipo、ayira、lam の観念を中心として」『人間情報学研究』第13巻、131-59頁、2008年3月、「酒に憑かれた男たち―ウガンダ・アドラ民族における酒と妖術の民族誌」『人=間の人類学―内的な関心の発展と誤読』(中野麻衣子・深田淳太郎編著)15-34頁、2010年3月、「その年も、「お年とり」は行われた─気仙沼市鹿折地区浪板および小々汐の年越し行事にみる「祈り」」『無形文化が被災するということ―東日本大震災と宮城県沿岸部地域社会の民俗誌』新泉社、16-28頁、2014年1月、「数百年後の年中行事を占う小径(こみち)」『季刊民族学』148号、46-55頁、2014年4月、「見えない世界」と交渉する作法―アフリカのウィッチクラフトと、フランシス・B・ニャムンジョの思想」『思想』、岩波書店、86-98頁、2017年7月、など。

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